コラム「インフラのメンテは中小企業の出番」


 社会インフラの一つである橋梁ストックは日本に70万橋あるといわれている。その内訳は高速道、国道が10%、都道府県道が15%、残りの75%は市町村道である(国土交通省資料より)。市町村に管理責任がある橋の多くは1960年代から1970年代の高度経済成長期に架けられ老朽化が進んでいる。しかし、管理に必要な金(予算)や人(担当する人材)が大きく不足しているのが実情だ。 その結果、日本の橋梁の多くはいつ何時崩壊しても不思議ではない状況におかれている。しかし、それらを壊して架け替えるのは財政面で難しいほか、交通渋滞が発生するなど問題点が多い。
そこで、見直されているのが丁寧な繕いを施し、橋梁を長寿命化することである。その事業に必要となるのは各橋梁に合わせた極めて多品種少量の作業や生産だが、それは小回りの利く中小企業に相応しい。しかし、今まで橋梁・道路などのメンテナンスは、大手ゼネコンか道路公団、電鉄会社に関連する企業群のみに仕事が発注され、一般の中小企業へは単に部品の受注しかなかった。今後、我が国は膨大な予算を費やして国土保全に邁進せねばならないが、その市場は中小企業活性化に生かすべきだと考える。

 そこで、私たちは、長年、橋梁の疲労研究をしてこられた関西大学環境都市工学部の坂野昌弘教授を委員長に、近畿大学、東大阪・大阪・兵庫の中小企業各社、経済産業省、大阪府、東大阪市などの支援を受け「東大阪橋梁維持管理研究会」を2014年1月に立ち上げ、様々な問題の解決策を模索してきた。
 それらには、中小企業が作った機器類を誰が保証するのか、もしトラブルがあった時にそれを補填するだけの保険がかけられるのかなどの重要な問題も内在する。そこで私たちは、実証研究を試みることにした。
 まず第一に、南海電鉄に依頼し、同社で実際に使われている橋梁で私たちが開発した機器を用いメンテナンスを行う。それを当研究会主要メンバーで橋梁診断における日本の第一人者である株式会社BMCが査定、品質保証をする。こうしたことにより、中小企業が作った製品が広く一般の道路関係・橋梁関係に使用できることを立証しようと考え、産官学連携で研究に取り組んでいる。
 先頃、「東大阪橋梁維持管理研究会」の構成メンバーからある案件が持ち上がった。橋梁維持管理において最も大切なことは、点検・修繕を完全なものにするための「掃除」である。にもかかわらず、ほうきと手作業で異物を取り除くという、合理的とは言えない手法に頼ってきた。この工程を省力化ならびに効率化する機器類の開発が喫緊の課題だというのである。
 大阪市建設局道路部橋梁課発行『大阪市橋梁点検要領(詳細点検・詳細調査編)』(平成24年3月)においても、「点検時に支承周りの土砂の清掃やガラの撤去などを行う」ことを記載し義務付けている。これは、他の市町村の今後の橋梁メンテナンスの基本になることも考えられる。
 そこで、将来的に橋守ツールセットを次の4段階で開発しようと検討しているが、まずは1の掃除機を優先して開発する予定である。
 1、掃除機 : 表面をバフ加工し、剥離物を収集するマシン。強力な馬力・軽い・壊れない・コンクリート破片でも吸引できる・コードレス
 2、表面を塗装するコーティングマシン
 3、修繕マシン : ナットの付け替えとボルトの交換など
 4、見えにくいところの点検器具 : カメラなど
※ 1から3の案件は経済産業省から補助を受け試作品作りに取り組んでいる。
 当研究会の活動が一助となり、中小企業がメンテナンス分野に進出できるチャンスが広がれば幸いである。

大阪シティ信用金庫調査季報 10月号掲載